赤魚と明太子の煮込み—八幡西区CS60出張日記ーCS60LOHAS北九州緩み
- 管理者
- 7月16日
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北九州市八幡西区。午後から小雨の予報が出ていたが、午前の空はまだ曇り空のまま沈黙していた。市街地の喧噪を少し離れた住宅地、ひときわ無骨な印象の平屋造りの玄関をノックした。出てきたのは、肩幅の広い男性だった。
年齢は四十代後半か。がっしりとした体格に、重心の低い歩き方。聞けば空手歴二十余年の人物であった。鍛え抜かれた身体が物語るものは多く、私が携えているCS60の器具に対しても、最初から好奇心というよりは「目利き」の目をしていた。
「氣功、やってるんですよ」
施術台に横たわりながら、男性は言った。
トレーニングの一環として、氣の修練をしているという。
空手の型に氣功の要素を取り入れ、体内の「巡り」を整えることが最近のテーマらしい。
私は膝とふくらはぎを中心に施術を行いながら、その男性の言葉に耳を傾けていた。
肉体と精神、武道と氣。交わらぬようでいて、実は深く結びついている。その証拠に、ふくらはぎを撫でるように施術したとき、男は一瞬だけ深い吐息を漏らした。
「居酒屋、行くんですよ。練習のあとのビール、最高ですよね」
突然話題が変わった。肩の力が抜けたのか、男の口調も少し砕けた。話を聞くと、最近感動した料理があるという。それは「明太子の入った煮豆腐」だった。
「明太子を煮るなんて、想像もしてませんでした。しかも、出汁が絶品でね。たぶん、昆布か鰹に、酒と塩……。味の骨格がシンプルだから、明太子の旨味が立つんですよ」
私の指は彼の膝裏を探りながら、その言葉をしっかりと記憶に刻み込んでいた。——明太子を煮る。意外だが、確かにうまい氣がした。
帰路、私は最寄りのスーパーに立ち寄った。赤魚が安く出ていた。棚の隅には明太子もある。すでに夕暮れが迫り、街の光が徐々に灯り始めていた。私はその二つを買い求めた。
夜。土鍋に昆布と酒を敷き、赤魚を入れ、明太子をそっとのせた。あとは火を入れて強火でしばらく過熱して、静かに待つ。やがてふつふつと小さな音が立ち、鍋の蓋の隙間から、明太子の香りが漂い始めた。
ひと口。これは、うまい。赤魚の身がほろほろと崩れ、明太子の塩気がその隙間に染みこんでいた。出汁の底に、何か芯のような味があった。思えば、あの男の鍛え抜かれた体の奥にも、こんな芯が通っていた。
明太子は焼いてもうまい、和えてもうまい、そして煮てもなお、人の心をほぐす味がある。
CS60の施術は、肉体だけでなく、その日常にある「うまさ」や「氣づき」を、そっと呼び起こす。それは小さな一皿にも宿る、静かな驚きである。
——この仕事をしていて、時おり、そんな発見がある。
明太子ひとつで、人生の一場面が立ち上がることもあるのだ。

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