冬のはじまりに思うこと ―忘れられなかった串カツの味〜喫茶猫屋堂整体〜CS60LOHAS北九州緩み
- 管理者

- 10月25日
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急に寒くなった。秋は足早に通り過ぎ、冬がやってきたようだ。
青年は、あの串カツの味が忘れられなかった。
それは、どこか現実のものとは思えない、記憶の奥に沈んだ夢のような味だった。
微かな記憶を頼りに、青年は再現を試みた。
練り粉、細かく砕いたパン粉、揚げ油、大きな釜――。
見た目や香りは、あの店で見たものと近い。
だが、口に含んだ瞬間、心のどこかが「違う」とささやく。
「味」というのは、不思議なものだ。
材料をそろえ、手順をなぞっても、再現できないことがある。
ほんの少しの違い。
それが積み重なり、やがて大きな差になる。
そして、その僅かな違いをどう辿っていけばいいのか、青年にはもう分からなかった。
手を止め、外を見ると、曇った窓の向こうで木々の枝が風に揺れていた。
落ち葉が静かに道を渡り、まるで誰かが通り過ぎたあとを示すように舞っている。
その光景を見ているうちに、青年はふと思った。
――あの味は、味そのものではなく、あの夜の空氣、店主の言葉、油の音、心の静けさ……
そうした“時”そのものの味だったのではないかと。
人の身体もまた、同じなのかもしれない。
調子を崩したとき、「整えよう」と思っても、なかなか元には戻らない。
けれど、ほんの少しずつ、呼吸を深め、身体をゆるめ、心を落ち着けていくと、
いつの間にか、元の形ではなく“今の最善の形”に戻っている。
青年は、串を一本だけ油に落とした。
ジュッという音が、心の奥に響いた。
その音を聴いているうちに、なぜか涙が出た。
味を再現することよりも、今、この瞬間を大切にすること――
それが、あの店主の言いたかったことなのかもしれない。
外に出ると、冷たい風が頬を撫でた。
遠くの道端には、六地蔵の小さな祠があった。
誰が置いたのか分からないが、その足元には、竹串が一本、そっと立てかけられていた。
青年は手を合わせた。
あの夜と同じように、心の奥に灯りがともる。
それは懐かしく、そして温かかった。
帰り道、青年の足取りは軽かった。
「再現できない味」ではなく、「もう自分の中にある味」になっていたからだ。
――人の身体も、心も、日々の暮らしの中で少しずつ整っていく。
それは、誰かに教わるものではなく、自分の内にある“静けさ”が導いてくれるもの。
冬のはじまり、冷たい空氣の中で、青年はようやくその意味を理解したように思えた。
喫茶猫屋堂整体
CS60LOHAS北九州緩み





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