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冬のはじまりに思うこと ―忘れられなかった串カツの味〜喫茶猫屋堂整体〜CS60LOHAS北九州緩み

 急に寒くなった。秋は足早に通り過ぎ、冬がやってきたようだ。

 青年は、あの串カツの味が忘れられなかった。

 それは、どこか現実のものとは思えない、記憶の奥に沈んだ夢のような味だった。


 微かな記憶を頼りに、青年は再現を試みた。

 練り粉、細かく砕いたパン粉、揚げ油、大きな釜――。

 見た目や香りは、あの店で見たものと近い。

 だが、口に含んだ瞬間、心のどこかが「違う」とささやく。


 「味」というのは、不思議なものだ。

 材料をそろえ、手順をなぞっても、再現できないことがある。

 ほんの少しの違い。

 それが積み重なり、やがて大きな差になる。

 そして、その僅かな違いをどう辿っていけばいいのか、青年にはもう分からなかった。


 手を止め、外を見ると、曇った窓の向こうで木々の枝が風に揺れていた。

 落ち葉が静かに道を渡り、まるで誰かが通り過ぎたあとを示すように舞っている。

 その光景を見ているうちに、青年はふと思った。

 ――あの味は、味そのものではなく、あの夜の空氣、店主の言葉、油の音、心の静けさ……

 そうした“時”そのものの味だったのではないかと。


 人の身体もまた、同じなのかもしれない。

 調子を崩したとき、「整えよう」と思っても、なかなか元には戻らない。

 けれど、ほんの少しずつ、呼吸を深め、身体をゆるめ、心を落ち着けていくと、

 いつの間にか、元の形ではなく“今の最善の形”に戻っている。


 青年は、串を一本だけ油に落とした。

 ジュッという音が、心の奥に響いた。

 その音を聴いているうちに、なぜか涙が出た。

 味を再現することよりも、今、この瞬間を大切にすること――

 それが、あの店主の言いたかったことなのかもしれない。


 外に出ると、冷たい風が頬を撫でた。

 遠くの道端には、六地蔵の小さな祠があった。

 誰が置いたのか分からないが、その足元には、竹串が一本、そっと立てかけられていた。

 青年は手を合わせた。

 あの夜と同じように、心の奥に灯りがともる。

 それは懐かしく、そして温かかった。


 帰り道、青年の足取りは軽かった。

 「再現できない味」ではなく、「もう自分の中にある味」になっていたからだ。


 ――人の身体も、心も、日々の暮らしの中で少しずつ整っていく。

 それは、誰かに教わるものではなく、自分の内にある“静けさ”が導いてくれるもの。

 冬のはじまり、冷たい空氣の中で、青年はようやくその意味を理解したように思えた。


喫茶猫屋堂整体

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飛翔

 
 
 

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