「ゲームの世界を旅する君へ──水巻町のレトロゲームコレクターと螺旋の左腕 CS60LOHAS北九州緩み」
- 管理者
- 7月25日
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夏の午後、福岡県遠賀郡水巻町に向かう。
稲の緑が風に揺れていた。
その先に待っているのは、レトロゲームをこよなく愛する男性だ。
先月、「餓狼伝説SPECIAL」で戦ったのがなつかしい。
「今回は左肩に違和感があって…」
彼はそう言って私を迎え入れた。
ふと目に止まったのは、最近購入したという新作アクションゲーム。「メトロヴァニア」と呼ばれるジャンルで、主人公は小さな少女。
荒廃した世界をさまよい、力を得て、閉ざされた道を切り開いてゆく。ピアノの旋律が静かに流れるその世界観に、彼はすっかり魅了されたらしい。
「ずっと氣にはなってたんですけどね、レビューとか見ながら我慢してて。でも、ちょっとしたご褒美にって……つい。」
そのゲームは、美しく、そして容赦なかった。高難度のボス戦を繰り返す中で、彼の肩に違和感が忍び寄ってきた。
「寝たら治ると思ったんですけどね……なかなか。」
話を聞きながら、私は施術を始めた。起点は左肩。だが、その緊張の連鎖は想像以上に広範囲に広がっていた。脇、胸、首筋、そして後頭部へ――ゲームの中のダンジョンのように、見えない道筋を探りながら、一つひとつの筋肉に丁寧に語りかけていく。
「ちょっと、動かしてみましょうか。」
左腕を左右に。前後に。上下に。
ぎこちない動きが、施術を重ねるごとにほぐれていくのがわかる。
そして試したのは、日常ではまず使わない動き――「螺旋」の運動。
外回りの螺旋はスムーズに描けたが、内回りに入った途端、腕が止まった。
その動きを途中で止めて、また施術。これを何度も繰り返す。
ようやく、彼の左腕は美しい内回りの螺旋を描いた。
「こんなことができるようになるなんて……めちゃくちゃびっくりしました。」
嬉しそうな顔でそう言った彼に、私は心の中でうなずいた。
お稽古のお作法や茶道の所作、舞のひとつひとつ――一見、日常とは無縁のように思える身体の使い方が、実は人の根幹を支えている。
忘れ去られた「動きの知恵」は、現代の私たちに静かに語りかけてくる。
施術が終わり、私はふと彼と一緒にレトロゲームでもするのかと思った。だが、彼は苦笑してこう言った。
「しばらくゲームは自粛して、セルフケアに努めます。」
そして、ぽつりとつぶやいた。
「長時間、同じ姿勢で一点に荷重をかけてたのが原因だったのかもしれません。」
私はうなずいた。ゲームの世界には冒険と発見がある。けれど、それはこの現実の世界も同じだ。
身体を見つめなおすこと。
動きを取り戻すこと。
痛みや違和感の先に、新しい自分との出会いが待っている。
私はこの日、彼の冒険の続きを、少しだけ手伝うことができたのかもしれない。
そして思う。
ゲームは確かに面白い。
だが、この世界には、面白く、人を幸せにするものが、まだまだたくさんあふれている。

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