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「信仰と筋肉と蝦の甘炊き」――CS60LOHAS北九州緩み・小倉南区にて

その日、小倉南区には淡く霞がかかっていた。季節の境目を感じさせる曇天の朝。

私の足は、一軒の家へと向かっていた。CS60の施術依頼を受けた50代の女性。

聞けば、自宅で聖書を独学で学んでいるという。施術に必要な道具一式を鞄に詰め、私はその家のドアをノックした。


玄関を開けた女性は、穏やかな笑みをたたえていた。年齢よりも少し若く見えたが、その目の奥には深い思索の痕跡があった。彼女は言った。「今日は、ちょっと全身がだるい氣がして……」


施術の時間は70分。十分とは言えないが、体の深部にアプローチするには足る時間だ。彼女の体に触れて、私はすぐにあることに氣がついた。――筋肉のこわばり。それも全身に及んでいた。


「毎週、水泳に通っているんです」と彼女は言った。最初は溺れないようにと始めたらしいが、今では泳げる距離も伸び、フォームにも磨きがかかってきたという。だが、「人と争うことは苦手なんです。ただ続けること、それが私の目標なんです」と、どこか寂しそうに呟いた。


その表情に、私は何かを感じ取った。彼女の話は水泳からやがて信仰の話へと移った。アメリカに滞在していたとき、宗教について聞かれても、何も答えられなかった自分がいたという。それが、彼女の「聖書との出会い」だった。

「私はキリスト教徒ではありません。でも、信仰って何か大事なものだと思うようになったんです。この時代……聖書の黙示録に似ていると思う瞬間が、あります」


彼女の言葉は、曇天の空のように、濁りも晴れもない静かな響きをもって私の胸に落ちた。それから歴史の話になった。特に、彼女が深く学んでいるというのが「権藤成卿」。

「福岡県って、すごい歴史を持った人がいるのに、意外とみんな知らないんですよね」そう言って、彼女は小さく笑った。


施術が終わった頃、私は不思議な空腹感に襲われていた。集中するあまり、食事のことなど忘れていた。と、その時――

「もうひとつお願いがあるんですけど……」

彼女は少しだけ恥ずかしそうに言った。「近くに、本当においしい中華料理屋があるんです。でもね、一人で行くには量が多くて……よかったら一緒に行きませんか?」


意外な展開だったが、私は迷わずうなずいた。その中華料理店は、確かに本格的の名に恥じぬ佇まいだった。

洒落たエントランス、どこか異国の空気を含んだ店内、そして漂う香の匂い。


店の奥に通されると、彼女は次々と料理を注文した。メニューには目もくれず、まるで「いつもの」と言わんばかりの手際だった。

まずやってきたのはエビチリ。一口食べた瞬間、ネギ、生姜、ニンニクが見事に調和したチリソース。ご飯がみるみる消えていく。そしてエビ煎とともにソースは跡形もなく消えていった。

次は、酢豚。驚くほど大きな皿に、これでもかという量の豚肉が。さらに春巻きが五本、まるで並んで出勤する兵士のように皿の上に整列していた。


そして、彼女が「一番食べたかった」と言った蝦の甘炊きが運ばれてきた。巨大な蝦が、濃厚でとろみのある餡にしっかりと包まれていた。箸で掴むと、餡がとろりと落ちて皿に戻る。まるで重力がその存在を惜しむように。

「……これ、一人で食べたら一皿でお腹いっぱいですよね」

「そうなんです。でも、全部食べたかったんですよ」彼女は微笑みながら言った。目の奥に、どこか“自由”への憧れのような光が宿っていた。

――アメリカに、また行きたいのだという。「日本は、真面目すぎる。あっちはもっと、自由で、フレンドリーで……私にはアメリカが合ってるんです」


中華料理店を出ると、雲間から少しだけ陽が差した。まるで、誰かが見ているかのような午後だった。

そして私は、ふと思った。この日出会った彼女のように、誰もが心のどこかに、静かに火を灯しているのかもしれない。それは信仰であれ、歴史であれ、泳ぐことであれ、中華料理の熱であれ――。

人の内側にある“熱”は、時に筋肉に、時に言葉に、そして表情の奥に滲む。

ふと私は思った。整体師として彼女の体を緩めたはずが、逆にこちらの心がほぐれていたのではないかと。


聖書

 
 
 

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