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ある饂飩の記憶 ——北九州市八幡西区にて——CS60LOHAS北九州緩み 出張施術記


それは、六月の中旬、北九州市八幡西区へ出張施術に赴いた折のことである。

予約時の電話で「お仕事の都合で、つい先日熊本へ行ったんです」とお客様は静かに語っていたが、実際に玄関で対面すると、その表情には何かしらの余韻が残されていた。

施術中、わたしは例によって、無理に口をひらかず、身体の声に集中していた。だが、施術が佳境に入った頃、不意にその饂飩(うどん)の話が始まったのである。


曰く、熊本で偶然立ち寄った一軒のうどん屋。その味が「衝撃的だった」と。わたしはその語に、どこか文学的な含意を読み取ろうとした。衝撃とは、すなわち期待を裏切られる歓びである。かつて饂飩に深い情熱を抱いていた彼にとって、その店の饂飩は、記憶の中の凡庸なる麺をあざ笑うかのような完成度を誇っていたという。


「麺に腰があるのに、すべすべしていて、なめらかで、しかもシンプルにうまいんです」まるで彼の言葉は、施術後の肌の感触を形容しているかのようでもあった。冷やしぶっかけに海老天、野菜天、大根おろし、レモンのしずく。それらが一皿に凝縮されるとき、味覚・嗅覚・触覚・視覚・聴覚——五感は順に開かれてゆき、幸福は静かに体内に降り積もる。


その店には、券売機がなかったという。そして、狭い店内にも関わらず、人の手と手が交差する「曼荼羅」のような流れがあり、無駄がない。「やっぱり人ですね」彼のその言葉は、わたしの脳裏に長く残った。われわれがしばしば軽んじがちな「人」という要素が、饂飩の味にも、空間の心地よさにも深く作用しているのだと。


「普通の人との何氣ない一言が、心に残ることがあるんです」それは、むしろ誰とも話さない時間の対極にある贈り物だろう。彼は、声に出して、店員に目を向けて感謝を伝えるという。だが、よく観察すれば「ありがとう」の一言すら言わない者が、99%を占めている、とも。


その事実を前にして、わたしは内心、ある種の倫理的寒気を覚えた。しかしその後に続く言葉が救いであった。「食事のおいしさは、感謝の氣持ちに比例するんです」

ここまで話して、彼はふと話題を変えた。「仕事中は、車の中でゼリーだけ飲んで、また移動して……。食べられないこともあるんです」それはまるで、一種の断食である。だがその「断食明け」の一口の食事は、異常なほど美味であると彼は言った。


飢餓と満腹のあいだにある、名状しがたい官能。その振幅の中に、人間が人間たるゆえんがあるのかもしれぬ。

「答えは出ないし、思った通りにはならない」最後にそう言った彼の言葉は、どこか痛みを孕んでいた。


だが、だからこそ「食欲という本能」は、確かにわれわれを支えている、と。

たしかに、我々がいくら思索を重ねようとも、饂飩一杯の説得力には及ばないのかもしれない。


生きていることの意味は、ときに一杯の饂飩の中にしか宿らぬこともあるのだから。


うどん

 
 
 

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