【思いがけない贈り物】庭のフキと鞍馬寺の記憶
- 管理者
- 4月23日
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皆さんこんにちは。
北九州市近郊でCS60の出張整体を行なっておりますCS60LOHAS北九州緩みです。
ある春の日のこと。八幡西区での出張施術を終えた帰り際、ご主人がふいに「よかったらこれ、どうぞ」と、手渡してくださったのは庭でとれたフキの煮物でした。
透明感のある、みずみずしい色合い。
醤油と出汁のやさしい香りがふわりと立ちのぼる、春のごちそう。
思わず「わぁ、手づくりですか?」と声をあげると、ご主人は少し照れたように笑いながら、ぽつぽつとお話をしてくれました。
「最近、ちょっと不思議な夢を見てね……。それで、鞍馬寺に行ってきたんですよ。」
鞍馬寺。
京都の山あいにひっそりとたたずむ、あの神秘的なお寺です。
ご主人は夢の中で誰かに呼ばれるようにして目を覚まし、その日の朝、小倉駅から新幹線に乗り、本当に鞍馬寺まで足を運んだのだそうです。
ケーブルカーを使わずに、山道をひとりで登ったと聞いて、私は思わず目を丸くしました。
「木の根がごつごつと張り出していてね。それを踏みしめながら、何ヶ所かで手を合わせながら登ったんです。時間はかかったけど、不思議な時間でした。」
山頂に着いたときには、山の静けさと空の広さに、胸がいっぱいになったといいます。
「なんというか…聖地っていうか、故郷っていう感じがしたんですよね。」
そう話すご主人の声は、静かだけれど、どこか晴れやかでした。
「帰ってきてね、ふと思い出したんですよ。昔、母が春になるとよくフキを炊いてくれてたことを。」
庭に芽吹いていたフキを摘んで、ゆっくり丁寧に下ごしらえし、薄味でふっくらと炊き上げたそうです。
「鞍馬寺で過ごしたあの時間と、母の煮物の記憶が、なんだか不思議と重なってね。旅の思い出の味っていうのかな。」
そんなふうに語るご主人の横顔を見ながら、私はその煮物の入ったジップロックを大切に持ち帰りました。
帰宅して、温かいごはんと一緒に、そっとひと口。
しっとりと、でもしゃきっとした歯ごたえ。
口いっぱいにひろがる出汁の香りと、ほんのり苦み。
どこか懐かしいのに、初めて出会うような、そんな味でした。
不思議な夢に導かれて訪れた山、踏みしめた土の感触、静かな祈りの時間。
そして、帰ってきてから炊いたフキの煮物。
旅は、時として、記憶と今とをつなぐ「鍵」のようなものを私たちにそっと渡してくれるのかもしれません。
思いがけない贈り物と、胸に残るお話に、心がふわりとほどけた一日でした。

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