星の下のたこ焼きパーティー 中間市のある夏のひととき CS60LOHAS北九州緩み
- 管理者
- 8月12日
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森のざわめきと川のせせらぎが、どこまでも穏やかに響いていた。
一人一品。たこ焼きに入れる具材を持ち寄る。これがルールだ。
その夜、私は「豚キムチ」を持っていった。
香ばしく、少し辛くて、でも何よりも、たこ焼きの丸い世界に寄り添えるよう、細かく刻んでおいた。
こんがりと焼き上がったその一粒に、口いっぱいの旨みが弾けた。奥様が「これ、ご飯にかけたいな」と言い出し、ついには白いご飯の上にもぽとりと落とされた。笑い声と、ふわりと立ちのぼる湯気。静かな夜に、小さな歓声が灯る。
ご主人は、こだわりのソーセージを持参された。
それは糸島の工房で丁寧に作られた逸品で、少し大きめにカットされていた。たこ焼きにもピッタリだ。しかし、そのまま食べたくなる。じんわりと焼けた香りが、空氣を豊かにしてゆく。ピリッとしたマスタードと、甘さ控えめのケチャップ。たこ焼き側に小さな王冠のように添えられたソーセージは、まるで「ごちそう」の風格だった。
一方、奥様が差し出したのは「イカの燻製」。
それも、スーパーで見かける普通の…おつまみコーナーにあるようなものだった。
私は正直、驚きを隠せなかった。たこ焼きに…イカの燻製…?
だが、そのイカの燻製は、たこ焼きに入ることなく、ご主人と奥様の手元で、静かに酒の友となっていた。そして私もまた、それをそのまま一切れ、口にした。
噛むほどに、燻香が広がる。たこ焼きに入れなかった理由など、もう聞く必要はなかった。
奥様の用意してくださった料理の数々。
ホルモンの煮込みは、柔らかく、深い味だった。ニンニクと生姜、それに出汁と味噌、そして少しだけきいた醤油の香り。まろやかなのに、芯がある味わい。
上にのった青ネギは、庭で採れたもの。ぴんと瑞々しく、まるで緑の羽のように料理を彩っていた。
その青ネギは、次にたこ焼きの具になった。
ご主人が手にしたピックが、まるで魔法の杖のようにたこ焼きをくるりと返してゆく。その手際に、私は見惚れた。
音楽が流れはじめた。
チャイコフスキー、そしてラフマニノフ。
少しノイズのある録音。
「このピアノ、あまり良くないな」
そう思っていたのだが、あとでそれがラフマニノフ本人の演奏だったと知った時、冷や汗が背中を伝った。言わなくてよかった、と心から思った。
奥様特製のソースは、透明なペットボトルに入っていた。もとは市販の野菜ジュースが入っていた容器だという。
その中身は、ベースのソースに、ウスター、オイスター、醤油、はちみつ…と、まるで秘密の魔法薬のようだった。
本人ですら「何が入ってるか分からなくなるの」と笑う。でも、その味は明確な方向性を持ち、どれも一貫して「おいしい」にたどり着く。
「調整していくとね、ちゃんと着地するの。不思議でしょ」
奥様はそう言って、くすっと笑った。
豚汁には、野菜ときのこがたっぷりと入っていた。中でも、里芋の柔らかさが心に染みた。
一口ごとに、心が落ち着いていく。優しい塩梅。奥の方で火がゆらいでいるような、そんな温かさ。
食べて、笑って、川の音を聴いていたら、氣がつけば夜は深まっていた。
星が瞬き、木々が静かに揺れ、虫たちが奏でる声が、まるでオーケストラのように包み込む。
「時間って、こんなに早く過ぎるんですね」
誰かが言ったその言葉に、誰もが静かにうなずいた。
この場所での集まりは、ただ「たこ焼きを楽しむ会」ではない。
そこには、氣づかぬうちにほどけていく心と、肩に乗っていた何かがすっと降りるような、そんな時間が流れている。
私はCS60という道具とともに、人の“緩み”の時間に寄り添う仕事をしている。
そして、この夜のような時間もまた、人の暮らしの「めぐり」を整えてくれるものの一つなのだと、改めて感じていた。

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